昔昔、貧乏旅行が趣味でした。暇をみつけては色々な場所に出かけたものです。(とはいっても本格的な旅人の方々から見ると、お笑いなのですが)そんな中から『水』にまつわる思い出を書いてみたいと思いますので、お付き合い下さい。十数年ぶりにベネチアを訪れることができました。しばらく仕事を休ませていただいた罪滅ぼしに若干のご報告させていただきたいと思いますので、宜しくお付き合いのほどお願いします。
俺はマルコといいます。よろしく。今日は俺のゴンドラに乗ってくれてありがとう。このモイカ運河からマルコ・ポーロの生家を回って、大運河に出てから帰ってくる大体45分のコースになるよ。
ゴンドリエーレになるには、ゴンドリエーレの家の男の子に生まれるしかないんだ。俺の家は俺で7代目。俺は今32歳で、他には妹がいるだけなので、俺の代で最後になっちゃったよ。妹は「サチコ」っていう日本風の名前ももっているんだ。ゴンドラを始めて漕いだのは12歳の時だったな。20歳で独り立ちしたけど、冬は仕事がないんで、勉強したり自分の好きなことをしたりできて、のんびりできる自由ないい仕事さ。今ベネチアでは120人位かな。
運河が大きく曲がっているところに差し掛かると、警告と挨拶代わりに、今みたいに声を掛けることになっている。ゴンドラは俺が立っている左側のほうが比較的曲がっていて、反対側のほうがまっすぐになっている。これはゴンドリエーレひとりひとりに合わせた特注なんだ。で、右側に体重の重い人、左側に軽い人が乗ってもらうことになっている。だから女の人は左だよ。ほら、今前の方に見えているあの家ね、あれがマルコ・ポーロの家だよ。建ってから600年以上経っている。マルコ・ポーロは13世紀にここから中国まで旅したひとだよ。GPSなんかなしでね。
ほら、リアルト橋のところに出たよ。橋の下でキスしているカップルがいるだろ。そうすると幸せになるといわれているんだぜ。えへへ。
あそこにゴンドラ3艘並べて歌を歌っているシンガーね、あいつは上手なヤツだよ。シンガーは結構いるんだけど、うまいのは三人だけだな。それから今の家だけどね、この500年間、ずっと同じ一家が住んでいる家だよ。すごいだろ。右側は商工会館だ。きれいなステンドグラスだろう。
いま船首をぐるっと回して逆さ漕ぎしてるけど、これは船着場につけるためだから、大丈夫だよ。さて、着いた。落っこちないように俺の手をつかんで一人づつ降りてくれ。
今日は乗ってくれてありがとうな。チャオ。



