昔昔、貧乏旅行が趣味でした。暇をみつけては色々な場所に出かけたものです。(とはいっても本格的な旅人の方々から見ると、お笑いなのですが)そんな中から『水』にまつわる思い出を書いてみたいと思いますので、お付き合い下さい。十数年ぶりにベネチアを訪れることができました。しばらく仕事を休ませていただいた罪滅ぼしに若干のご報告させていただきたいと思いますので、宜しくお付き合いのほどお願いします。


ベネチアの海洋歴史博物館の一角に、「ブチントーロ」と呼ばれる船の模型があります。
これは、かつて「アドリア海の女王」と呼ばれたベネチアがその威厳を示すために、毎年行っていた「海との結婚」という行事のためだけに使われていたベネチア総督の専用船です。「結婚式」にはもちろん指輪がつきもの。海の意志も尋ねることなく「われわれは汝、海と結婚する。」と勝手に厳かに宣言してドボンと指輪を投げ込んでいたとか。実はこの「指輪」も展示されているのですが、巨大な緑色の石が嵌ったそのリングはといえば、かなり大柄な女性でも、脚にはめても大丈夫なくらいの大きさ。「ポニョ」のお母さんくらいならなんとか「指輪」になるかもしれません。
さて、そのブチントーロなのですが、豪華絢爛。甲板は2重になっていて、総督や貴族の乗る上層の甲板はまるで舞踏会場のような寄木細工になっていて、金箔を施した名工の手になる彫刻がぐるりと取り巻いています。長さは30メートル以上あったといいますから、まさに浮かぶ宮殿。総督や貴族の面々が乗り組んだブチントーロはさぞかし壮観だったことでしょう。また、模型の隣には実際にブチントーロで使われていた豪奢な総督の椅子が展示されています。
さて、下の方の甲板に目を転じますと、これが簡素なベンチがぎっしり詰め込まれた粗末な作り。ここはオールを持った漕ぎ手たちの席です。まあ儀式の時にそれほどの距離を移動するわけでもないのですが、それでも上と下とではえらい違いです。身分制度のない世の中に生まれたことを感謝した、はずでした。
帰路、某航空会社ご自慢の総二階建ての新鋭機に乗せていただいた時のこと。上の階は豪華な個室のファーストクラスとビジネスクラス。お食事は選べるコース、ワインとシャンパン、行き届いたサービス、洗練されたインテリアでごゆっくりお寛ぎいただけます。まさに空飛ぶ豪華ホテルです。われわれ下の階はといえば前から後ろまでぎっしりとひざカックンのエコノミークラスの座席。あれあれ、これってどこかで見たことがありますよね。まあ、我々下の階の住人が漕がなくても飛行機は飛んでくれますので、文句を言ってはバチがあたりますが。



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