WHOでは、「生後6ヶ月を過ぎるまで完全母乳」を推奨しています

母乳育児はいつまで続けるとよいのでしょうか。この記事では、WHOが推奨する母乳育児の期間を目安に、いつまで続けることが望ましいかや、日本における母乳育児の実態などを紹介します。
母乳育児を終えるタイミングや、母乳育児を続けるために必要な周囲のサポートも解説します。
目次
WHOが推奨する母乳育児の期間

赤ちゃんが生まれてからいつまで、母乳育児を行うべきでしょうか。完全母乳育児と母乳育児それぞれで、WHOが推奨する期間を解説します。
生後6ヶ月までは完全母乳育児を推奨
WHOでは、赤ちゃんが生後6ヶ月を過ぎるまで、完全母乳育児を勧めています。なぜなら母乳には、赤ちゃんの成長に必要な栄養素が全て含まれているからです。
免疫力を向上させ感染症予防にも役立つので、できる限り母乳を与えた方がメリットを期待できます。また完全母乳とは、母乳以外のものを与えない方法ではなく、母乳をメインにしつつ必要に応じて母乳以外も与えるやり方です。
出産して1時間以内に初めての授乳を行い、6ヶ月を迎えるまで続けますが、出産直後から十分な量の母乳を分泌できるケースは珍しいといわれています。分泌が不十分な間は必要に応じてミルクを与えてもかまいません。
入院中から、退院後など、赤ちゃんに必要なだけ母乳が出るようになった時期は、人によってさまざまです。しかし、生後2週間までに半数の母親が、十分な母乳を分泌できる状態になっています。
生後6ヶ月以降は補完食を開始しながら母乳育児を継続
生後6ヶ月を過ぎてからは、母乳だけでなく補完食も始めましょう。一般的に「離乳食」といわれていますが、母乳から固形の食べ物へ移る過程の食事というイメージが強いので、「補完食」という言葉が勧められています。
・補完食の目的
生後6ヶ月を過ぎると、鉄分やエネルギーが不足しやすいため、補完食が必要です。身体に必要な栄養の補給とあわせて、食べる練習も行います。
しかし母乳も赤ちゃんにとって大切な栄養源なので、中止せず母乳と補完食の両方を与えましょう。
・必ずしも生後6ヶ月からとは限らない
赤ちゃんの成長や発達状況に合わせて、早い場合は生後5ヶ月から、ゆっくりの場合は6ヶ月以降のいつでも、赤ちゃんの食べる意欲が増したタイミングで補完食を始めます。
2歳以上まで母乳育児を継続することを推奨
母乳育児は2歳を過ぎるまで続けることが理想的と、WHOは勧めています。多糖類を消化する主な消化酵素であるアミラーゼは、2歳を過ぎると膵液で作られ十二指腸に存在するアミラーゼが増えます。
補完食でごはんを与えても、2歳まではでんぷんを消化・吸収しきれない状態なので、母乳も与えて栄養補給して成長をサポートしてください。同時に、病気のリスク低減も期待できます。
日本における母乳育児の実態

日本での母乳育児の実態はどのようになっているのでしょうか。この章では、日本の母乳育児率の推移を紹介し、母乳育児が広まりつつある背景と続けるための課題を解説します。
日本の母乳育児率の推移
日本では近年母乳育児を行う家庭が増えています。WHOが推奨する、「生後6ヶ月を過ぎるまで完全母乳」を行う家庭は特に割合があがっています。
具体的なデータをあげると、生後6ヶ月未満の完全母乳率は約50~60%、1歳まで母乳を続ける家庭の割合は約40%です。このデータから、世の中では母乳育児が重要と認識されていることがわかります。
母乳育児が広まっている理由に医療機関での支援の充実があり、他にも保健所や育児団体などが積極的に母乳育児のよさを伝えています。正しい情報を得ると母乳育児に対する前向きな認識を持て、母乳育児を信頼して選べるでしょう。
母乳育児が広まった背景
日本で母乳育児に取り組む家庭の割合が増している具体的な背景を、3つ紹介します。
・母乳育児の啓発活動の強化
母乳育児を続けると、赤ちゃんと母親の両方にメリットがあることがわかり、産院や自治体でよさを広める啓蒙活動が強化されました。ちなみに第一次世界大戦中は乳児死亡率が高く、それを低下させる目的で粉ミルクが登場した経緯があります。
高度成長期には、当時アメリカで主流だった粉ミルクによる育児が増え、母乳育児の割合は過去最低となります。その後WHOやユニセフによる母乳育児を勧める働きかけにより、母乳に含まれる栄養価の高さや免疫力向上の重要性が広く認識されるようになりました。
日本でも母乳育児を推進する運動が始まり、母乳育児に取り組む家庭の割合が少しずつ増えています。
・母乳育児支援制度の充実
全国で母乳外来や助産師による専門的なサポートが普及したことで、母乳育児の悩みや不安を相談できる場所がある安心感につながり、母乳育児を選びやすくしています。母乳育児に関する相談窓口やイベントの開催も増えており、母乳育児についての情報収集もしやすくなりました。
・育児休業制度の拡充
育休制度の整備にともない、母乳育児に専念しやすい環境が整いつつあります。育休を活用すると、「できる限り母乳育児を行いたい」という母親の希望が叶い、職場復帰に対する焦りも少なくなるため、母乳育児を続けやすくなります。
母乳育児を続ける上での課題
母乳育児を続けやすい環境は整いつつありますが、以下の3つの課題は完全に解消したわけではありません。
・職場復帰と母乳育児の両立
職場復帰し妊娠前に近い働き方を再開すると、職場や業務内容によっては搾乳の時間を確保しづらい場合があります。搾乳できない状態が続くと、母乳が止まる可能性があるでしょう。
・母親の健康上の心配
赤ちゃんに哺乳してもらえない、または搾乳できない状態が続くと、乳腺炎などのトラブルが起きる場合があります。授乳には体力が必要ですが仕事も忙しくなると、体力面精神面の両方で母親の負担が大きくなる恐れがあります。
・社会的なプレッシャー
母乳育児のよさを知ったために「絶対に母乳育児をするべき」とこだわり、母乳育児に対するプレッシャーを感じる母親もいるでしょう。母親がひとりでプレッシャーに耐えようとすると、断乳を早めるケースもあるため、周囲の十分なサポートが必要です。
母乳育児の終了タイミング(卒乳・断乳)

母乳育児を終える「卒乳」と「断乳」の違いは何でしょうか。この章では2つの違いと、いつまで母乳育児を続けて終了するか、タイミングの考え方を解説します。
卒乳と断乳の違い
母乳育児の終了を表す言葉に「卒乳」と「断乳」があります。
・卒乳
卒乳とは、子供が自然に母乳離れすることです。子供の成長とともに母乳を求める頻度が下がり、最終的に自然と求めなくなると終了です。無理に母乳から離れさせるストレスは少ないものの、授乳期間が長引く可能性があります。
・断乳
母親が授乳をやめる時期を決めて、終了することです。職場復帰など生活環境の変化や母親の体調に合わせて、計画的に授乳を終えられるメリットがあります。
母子ともに大きなストレスがかからないよう、準備をして断乳にのぞみましょう。
いつ卒乳・断乳するのが理想的?
WHOでは、母乳育児を2歳過ぎるまで続けることを推奨しています。しかし生活環境などにより、2歳過ぎまで母乳育児を続けにくい場合もあるでしょう。
必ずしも、2歳以上まで授乳を続けなければ子供の成長に支障をきたすというわけではないため、最終的な決定は子供の成長や母親の体調、生活状況などにより決めてかまいません。
卒乳・断乳を考えるタイミング
卒乳や断乳を考えるタイミングは、子供の栄養状態や成長、母親の生活環境の変化などを総合的に見て判断しましょう。卒乳や断乳のタイミングの具体的な例を紹介します。
【卒乳や断乳を考えるタイミング例】
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- 子供が1歳を迎え、離乳食を十分食べている
- 子供が自然と母乳を求めなくなってきた
- 母親の職場復帰のため、授乳時間の確保が難しい
子供の成長に無理がないかを見極め、母親の体調や家庭環境を考えて、タイミングを決めましょう。
母乳育児を続けるためのサポート体制

母乳育児をできるだけ長く続けたいと母親が思っても、ひとりでは継続が難しいので、家族や職場など周囲の理解と協力が必要です。
家族のサポート
母親に最も身近な存在である家族が母乳育児を理解しサポートすると、「卒乳するまで授乳を続けたい」という願いを叶えやすくなります。また家族自身も、育児へ関わっている充実感を得られるでしょう。
・パートナーのサポート
夫婦と子供だけで暮らす環境では、パートナーのサポートは不可欠です。母親が授乳や搾乳をする負担を、家事分担や夜間の授乳時のフォローなどで緩和しましょう。
出産後初めて家事をしようとすると、母親にやり方を教わらなくてはならず、さらに負担が増してしまいます。妊娠中から家事分担を相談し、やり方に慣れておくと安心です。
家事は体力が必要なので、母親は授乳など赤ちゃんのお世話に専念できるサポートをすると、心身への負担が軽くなり母乳育児を続けやすくなります。
・祖父母や親族の協力
母乳育児を続けたい母親の考えを祖父母や親族が理解し、必要な協力をすることも、母親の負担が軽くなります。祖父母や親族自身の育児経験などをもとに、過度にミルクの使用を勧めるなどすると、母親にとってプレッシャーがかかります。
あくまでも母親の考え方を尊重し、必要な範囲での協力にとどめましょう。
・家族で育児を行う心構えを持つ
母乳育児を続ける場合、母親はどうしても赤ちゃんの世話に多くの時間をさきます。授乳の頻度が高い、夜中に泣くことが多いなどの状態が続くと、疲労が蓄積します。
授乳以外の育児や家事全般はパートナーなど家族ができる限り行うと、母乳育児を続けやすい環境ができるでしょう。
職場の支援
働きながら母乳育児を続けるには、職場の理解と支援も必要です。
・授乳中の母親に対する理解
母乳育児に理解のある職場とは、母親が子育てと仕事を両立しやすい環境です。搾乳スペースや授乳のための休憩時間の確保を、職場復帰前に相談しておくと安心です。
・母乳育児を続けやすい支援
企業側は母乳育児を続けやすい制度を整備して、職場復帰を受け入れましょう。母乳育児の支援者向けのセミナーや学習会を活用すると、必要な支援の内容をスムーズに学べます。
医療機関や自治体の支援を活用
母乳育児を続けるために、地域の自治体や医療機関が提供する支援を上手に活用してください。産院には母乳外来を設置しているところがあり、乳腺炎などのトラブルがあったときの対処や不安の相談ができます。
産院や保健所では、助産師や保健師が母乳育児の相談に乗っています。地域の母乳育児サポートイベントや講習会へ参加すると、同じ母乳育児に取り組む母親と交流ができ、孤立せず母乳育児を続けられるでしょう。
(まとめ)母乳育児はいつまで続けるべき?WHOの推奨と実際の育児事情
WHOでは、「生後6ヶ月を過ぎるまで完全母乳」を推奨しています
WHOは、2歳を過ぎるまで母乳を子供に与えることを推奨しており、日本でも母乳育児に取り組む人が増えています。自然と子供が母乳を飲まなくなる「卒乳」と、タイミングを見計らって母乳をやめる「断乳」は、母親の体調や子供の成長具合に問題がなければどちらでもかまいません。
母乳育児を続けるには家族のサポートが必要で、職場復帰したあとも続ける場合は職場の理解が欠かせません。医療機関や自治体などの支援も受けながら、母親が母乳育児をしやすい環境作りに取り組みましょう。